人生の豊かさ

何度自分の幼少期を振り返ってみても、やっぱり僕は普通の子でした。父親は公務員で母親は病院の受付。3つ歳の離れた弟がいる4人家族です。小学1年生からサッカーをやって、バイオリンを小学4年生からチェロを高校3年間習っていました。勉強も普通。周囲に合わせてカッコだけの不良をしていたので、仲間の中であまり浮きすぎることもなく、いじめの対象にもならずいじめることもない感じの子です。特徴を拾うなら、寂しがり屋でちょっと正義感が強くて怒るよりは笑っている方が好きでした。

高校の後半くらいから学校で授業を受けているより繁華街に行って遊んでいる方が楽しいというか、学校抜けて電車乗って遊びに行っちゃう俺ってちょっとかっこいいという感覚になっていきました。結局何にもしないんですけどね。知り合った違う学校の子とただ話してるだけとか、公園で座り込んでナンパしたりとか、時間潰して1日が終わる感じ。大学に行くと更に遊ぶようになって、学校には年に数日しか行かずに朝からパチンコ屋に並んで夜は合コンするか雀荘にいて、土日は競馬場にいるのがお決まりで。なんだか無責任に生きる感じが好きとか、その日が楽しいのが最強っていつの頃からか思っていました。

そんなんだから大学を中退して都内で働きだしても選ぶ仕事、関わる人間もグレーで、詐欺だったり地上げの手伝いしたり、大した努力もしないで得たお金を握りしめてキャバクラ行って、学生の頃と変わらない生き方をしている中で覚醒剤と出会いました。ただ初めて覚醒剤を一緒に使おうって上司というか先輩に誘われた時、僕は本当に怖くて。覚醒剤はダメだろ!流石に親も泣くってば!って何度か断ったんです。俺はいいですよ。酒で十分ですわって。でも何度も誘われるうちに断り続けてる俺ってカッコ悪いなとか、周りの人達は使ってるのにおかしくなってないなとか、1回使って逮捕されることはないわなとか、使うための理由を少しずつ集めていたように思います。

じゃあ一回だけ付き合いますわって始めた覚醒剤はやっぱり素っ晴らしくよくて、すぐに自分にとって必要なものだと感じました。仕事も遊びも寝ないで出来る!それだけで当時の僕には十分使い続ける理由になりましたが、不安なんか全部飛ばせるし、喧嘩しても無敵だと信じられるし、セックスがこの上なくいい、そして大して依存しない。逮捕されるのは要領の悪いヤツって。

そこから5年くらいは上手いこと使ってました。ただその後は当然大事なものから全て失っていくんです。離婚して、仕事クビになって、携帯は借金取りからしか鳴らなくなって、ガサ入れがきて、ダルク入って。今クスリやめたら俺には何も残らないじゃんって最後のでも何度も悪あがきして、ダルクの中でも止まらなかったし途中退寮しても使って帰ってきて。死にたいけど死ぬことはできない結構キツイ日々を過ごしました。上手く使えなくなってきたのかもって感じ始めてからはほんの2、3年でどん底でした。

もうこのままじゃ本当に死んじゃうわって感じて、生き方を変えたいけど変えられないんですって泣きながら話した時に、ダルクにいた仲間の一人が一緒にいようよって言ってくれた時から僕の生き方の角度が変わり始めたような気がします。あれだけ止まらなかったクスリが止まって、気づいたら昔のように笑えるようになっていました。思っていたよりクリーンな生活は悪くなかったし、ただクリーンでいるだけで信頼してくれる仲間が増えていったのが大きかったです。それと刑務所で受刑している人達に体験談を話させてもらった時、緊張や単に余裕がなかった事も重なって物凄くまっすぐに正直な話をしました。覚醒剤って最初は最高だったしコントロールできてたのにアレ?って思ってからほんの数年でどん底だよって。本当に全て失って今はダルクにいて、やっと1年クスリ止めてるんだけど今日も使いたいよって。ダルク出たら俺はまたどうせ使っちゃうんだ、次は死ぬまであるわ、もう終わってるよ俺の人生って。そしたら聞いていてくれた人たちが俺もです俺もですって何人も言ってきてくれて、刑務官の人達からも感謝されて、僕のこんなアホみたいな人生がちょっとは人の役に立つのかという感覚を得られた事が、その後にダルクの職員を目指そうと思ったキッカケになっています。頼むから死んでくれって言うようになっていた家族ともほんの2、3年で関係が再構築されていきました。不思議なもんです。僕はずっと頑張らなきゃいけないんだと思っていたんです。人の倍働くからお金も稼げるんだと。評価されるんだと。そうしないと幸せにたどり着けないんだと信じていました。でも実際には大した努力はいらなくて、付加していくより受け入れることが僕には大切なんだとそれから何度も何度も気づく機会が与えられてきました。

今は2度目の結婚をして、娘の小学校で保護者会長なんてことをやらせてもらっています。仕事でも一つの施設を任せてもらっています。何より仲間だけではなく沢山の笑顔に囲まれている今の生活をそこそこ気に入っています。

僕は薬物依存症にならなかったとしたらどんな人生を送っていたんだろうとたまに考えます。回復を選ばなかったらどうなったかな。この人に出会わなかったらどうなっていたかなって思う人も沢山います。今のところは全て良かったんだと思えています。なのでこれからも感謝を忘れず続けていきます。