【最愛】【矛盾】【月並み】

  僕の家族は、高齢の父と母、男勝りのさっぱりとした妹です。
 個性豊かな家族ですが、愛情に溢れている、素晴らしい家族です。
 ゲイであることをカミングアウトした時も、「何年あんたの母親していると思ってるの。知ってたよ。隠していて辛かったね」と言ってくれた母。
 「マイノリティだからこそ輝けることもある。ユニークでいいじゃん」と言ってくれた、普段は親子らしい雑談もあまりしない父。10 代の頃より話す機会が増えたね。 
「【実の兄がゲイ】ってテーマで卒論書かせて」と言って動画回して提出した妹。
 そんな両親や妹、パートナーや友達、僕にとって最愛の人たちに囲まれています。
 けれど、そんな大切な人たちの愛情を裏切りたくないと思っているのに、欲望をコントロールできない。
そんな葛藤を抱えたまま今も過ごしています。

 思い返したら、初めて使ったのは過労と過去のパートナーからの DV、ストレスなどに押し 潰されそうな時でした。 
重圧から逃げたくて出会い系アプリで知り合った人と性行為に至る時に、ストレスから解 放されて気持ちよくセックスをしようと誘われました。
 酒に酔っていた僕は、医療従事者を名乗る相手を疑うことも無く、静脈に針を刺されていました。
すぐに多幸感に包まれ、悩み、悲しみ、疲れがなくなりました。
 その後、レイプに近い形での性行為でしたが、その時の性行為はそれまでに味わったことのない程気持ちよかったことを覚えています。
安定剤のような物と説明されて、深く考えずに薬物を使い出したのが、依存症の入り口になってしまったのです。
まさに、薬物依存地獄の幕開けです。

   安定剤のような物と自分に言い聞かせていましたが、再度連絡を取り 2 回目に使った時 に、無視できない不安から相手に尋ねると、覚せい剤だ、と正直に教えてくれました。 元々小心者だった自分は、事実を知って涙を流して後悔をしました。
 けれど、あの気持ちよさが忘れられなくて、いつの間にか使う頻度が増えていきました。
大切な家族、自分にはもったいない程のパートナーがいるのに、覚せい剤に手を出していたことの裏切り、罪悪感、捕まることによって迷惑をかけてしまうかもしれない不安、考えれば怖くて、辛い気持ちになります。
そう思っても、一度使いたいと思い出したら歯止めが効かなくなって薬物を使うことしか考えられなくなっていきました。

 段々と自分で使う頻度をコントロール出来なくなり、辞めなくてはいけない、家族を悲しませたくないと思いつつも、けど使いたい、手放したくないという葛藤の中で薬物を使い続けるという選択をし続けてしまっていました。
 もう、コントロールができなくなっていました。
 辞めたい、やりたい。矛盾ばかりでした。
自分が薬物に支配されている、そう自覚があるのに、このままでは大切な人を悲しませるのに辞めれなかったんです。

 けど、転機が訪れました。
 使う量も頻度も多くなりすぎ、自分の状態がおかしくなっていることを付き合っていた彼氏に気付かれました。
もう、終わった...そう思ったのですが、彼氏は怒らないから、離れないから正直に話して欲しいと言ってくれました。
 もう、話すしかありませんでした。
彼氏は、泣きながら話す僕の話を最後まで聞いてくれて、苦しい思いをしたであろうに
「辛い思いをして、また使いたいと思ったら今度は俺に話してみて。一緒にやっていこ
う」と言ってくれました。
本当に、自分にはもったいない素晴らしい人です。
 かけがえのない、大切な人だと心から思いました。人生を共にしたい、そう思いました。
けれど、どうしても使いたいという気持ちは無くせない。
 大切な人達が自分を支えてくれている、その人達を自分も笑顔にしたい、そう心から思っているのに、同じ心で薬物を使いたいと熱望してしまう。
薬物との戦いは、いつまでも終わらず、自分を疲弊させていきます。
 願わくば、疲弊するのは自分だけで、大切な人達にはこの苦しみを背負わせたくないと思っています。
それが、自分を支えると決めてくれた家族や彼氏、友人へのせめてもの誠意と思っています。

自分は何も特別なことはない、月並みな人間です。
 けれど、支えてくれる周りの人達がいてくれるから、自分の人生は輝き、特別な人生と感じることができます。
それを脅かすのが、薬物。
薬物の脅威に抵抗しようとしつつも、その誘惑に勝てずに長く苦しみました。
今も苦しんでいます。
 過労やストレスから解放されたい、気持ちよくセックスをしたい、そんな軽い気持ちから使い始めた薬物が、人生を壊そうとするのを自分一人では止めることができません。

 一人だと、薬物の存在に飲み込まれて人生を差し出してしまいます。
この流れから抜け出すには、自分の無力さを認めて周りの人に助けを求めるしかないと感じています。
 大切な人を大切と思うから、信頼しているその人の信頼も裏切りたくないと思うから、その想いで自分一人ではどうすることもできない状況を乗り越えていく。
まだ、乗り越えられていません。一生かけて乗り越えていかなくてはいけないと思っています。
 けれども、飲み込まれないように、これからも大切な人達のことを思いながら、必死に踏ん張っていこうと思っています。

 もし叶うのならば、これを読んでいるまだ薬物を使ったことのない人には薬物に手を出 して欲しくない。消えない罪悪感と十字架を一生背負う人生を味わってほしくないです。 これを読まれた方が、少しでも共感してくださり、興味本位で薬物に関わらないきっかけに なってくれたら、嬉しいです。